
【戦略篇 その3】MDS指標を用いたポートフォリオ戦略(第2回)
(3−1)市場優位性を持つブランドに適した戦略
前回はブランドポートフォリオの考え方と、ポートフォリオに適応させることができる基本戦略にはポートフォリオの成長段階に応じて合計10種類のアプローチがあることを説明しました。ポートフォリオを4つの成長段階毎に分けて、それぞれの成長段階に最適な戦略はどのようなものかを、これから連載形式で説明していきます。
マーケターのためのブランド戦略 連載講座
ブランドのポートフォリオは何をゴールにして、どのように管理すればいいのか?
【戦略篇】MDS指標を用いたブランドポートフォリオ戦略の考え方
<目次>
(3−1) 市場優位性を持つブランドに適した戦略
● 保有する市場優位性を活かした戦略を考える
● ブランド類型のシンボルまたはスターブランドを目指す
● ブランドの価値を更に高めることを目指す
● 価格を上げれば、ブランドの価値もあがる場合がある
● 他の一般的指標から見た、想起性と意義性の関係
●「助成認知が高い」が意味することは何?
● 非助成想起を基に算出されたものが「想起性」
● スターブランドであっても意義性に「勢いが足りない」ことがある
● マインドシェア(意義のある差別性)が高ければ、流通店頭先でも優位となる
最初に、ブランドが最も強い市場優位性を持っている状態から始めていくことにします。
保有する市場優位性を活かした戦略を考える
この象限では、想起性が高く大きなマインドシェアが獲れているだけではなく、差別性と成長性も高いのが特長です。つまり、現在でもすでに大きなシェアは取れているものの、まだまだ積極投資を続けて更にシェア拡大を目指すべき、ということになります。あるいは積極投資の原資をシェア拡大ではなく、収益拡大(単価アップ)に求めることもできます。何故なら、この象限のブランドはプライシングパワーが高く、現在の価格以上の価値が消費者から認められているからです。

ブランド類型のシンボルまたはスターブランドを目指す
この象限は主に2分されます。下図の緑色のブランドは右上象限のコアであり、象限の強みを充分に享受できていますが、グレーの部分のブランドは更にブランドを強化してコア象限に入れるように努力を続ける必要があります。また緑色部分にポジションされていても、例えばスターブランドであればシンボルブランドを目指してさらに成長させる必要があります。

既に市場優位なポジションにあるのに更に成長を目指す理由はシンプルです。成長可能性が高くて投資リターンも高ければ、利益拡大を義務付けられているどの企業にとっても最も割がいいからです。
ブランドの価値を更に高めることを目指す
この象限のブランドは意義のある差別性が高いので、顧客からブランドの価値も高く感じられます。ブランドの価格(知覚価格)の高低に関わらず、ブランドに価格以上の価値を感じさせる力をプライシングパワーと呼びますが、比較的高い価格で販売している場合(プレミアム価格戦略)でも、比較的低価格で販売している場合(バリュー価格戦略)でも、価格以上の価値=魅力を感じさせるブランドは購買されやすくなります。
右上象限のブランド(類型で言えばアイコン/スターブランド)は既にプライシングパワーは高いのですが、これを更に引き上げていくことを考えます。
下の図は、プライシングパワーと知覚価格の関係を示したグラフです。MDSマップで右上象限にくるブランド(アイコン/スターブランド)は、プライシングパワーも高い(グラフの縦軸で平均の100を超す)ことがわかります。

ここで、グラフの見方を説明すると、プライシングパワーそのものは縦軸だけを見れば足りるのですが、横軸に知覚価格をおくと、プレミアム価格として価値が高いのか、バリュー価格として価値が高いのかの違いが判ります。上のグラフではMDSマップで右上に来る(シンボル/スター)ブランドのプライシングパワーは平均を超えて高い(縦軸)のですが、国内ブランドの平均でいうと、シンボル/スターブランドにはプレミアムな(知覚)価格であるものが多い、ということになります。
またグラフでは知覚価格との回帰直線を黄色の線で示していますが、この線は「このカテゴリーでこの知覚価格だったらこれくらいのプライシングパワー」という期待値を示します。ブランドのプライシングパワーがこの線を上回っている場合は、そのカテゴリーでの(知覚価格からの)期待値以上の価値(プライシングパワー)を持っているということを示します。上の図のアイコン/スターブランドのいずれも回帰線(期待値)を超えてプライシングパワーが高く感じられていることになります。
価格を上げれば、ブランドの価値もあがる場合がある
このとき大事なのは、実勢価格ではなくて知覚価格には消費者の品質評価が含まれることが多いということです。言い換えると、値上げによる高い知覚価格が受容された時は品質評価(=プライシングパワー)も上がる可能性があるということです。
もしブランドが価格以上の価値が既にあるのであれば(上の図で言えば、黄色の回帰直線をブランドのプライシングパワーが上回っている)、価格を上げることで知覚価格も高くなる可能性があります。そしてそのブランドの新しいプライシングパワーが回帰直線を上回るかライン上であればであれば、価格値上げは「それだけの価値があるブランド」として受容されたことになります。
ただし、これは原理原則的な考え方の説明であり、実際にどれくらいまであげられるかはコンジョイント調査等で精緻に特定・調整する必要があります。(参考までに、カンターには手軽にコンジョイント調査が行えるチョイス・エバリュエートという手法があります。)一方、既にコンジョイントを実施される方にとっての示唆は、価格変数は商品・ブランドから独立した絶対値的な要素として考えるのではなく、ブランドの力の影響を受けている変数としてコンジョイントの組み合わせは考えたほうがいい、ということになります。
他の一般的指標から見た、想起性と意義性の関係
「戦略篇」の前段でMDSマッピングの右上象限に来るブランドは想起性(購買時にすぐ思い出されやすい)が高いと説明しました。この想起性と関連する他の指標(認知等、通常のトラッキング調査等で一般的に使われることが多い指標)のスコアを、ブランド類型ごとに見たのが下グラフです。右上象限のコアとなるシンボル/スターブランドは認知やトライアル経験が高いということがわかります。
また、意義性は体験により強化されると説明しましたが、意義性が高い類型はトライアル経験も高くなっています。反対に右上象限の入口にいる「気になる」ブランドは助成想起に較べてトライアル経験が低く、意義性の強化が課題ということを裏付けています。

(註)ブランド類型とはBrandZデータベースの意義性・差別性・想起性のスコアの「波形」から10の典型的なブランド類型に分類したもの。上記グラフに記載されているように、それぞれの類型には名前が付けられている。最も強いブランド力があるのが「シンボルブランド」と名付けられそのカテゴリーを代表するシンボル的なブランドを意味している。また、ブランド力が最も弱いのが「顔なしブランド」と名付けられ、想起性がデータベースの下位25%しかなく多くの消費者にとって顔が全く見えていないことを示す。
「助成認知が高い」が意味することは何?
また、助成想起(助成認知)は、ブランド名やロゴを呈示して認知の有無を聞くもので、「認知」といったときはこの助成認知を指すことが多いと思います。助成を行って聞いているのでどの類型のブランドも比較的高い結果となり、最低の「顔無し」ブランドでも平均で7割近い助成認知を持っています。とはいえ、シンボル/スターブランドの助成認知はほぼ100%近くまで上がります。
「競合と較べても認知では結構頑張っているが、その割にその他項目のパフォーマンスが悪い」といったような会話をよく聞きますが、上記のデータを見ると「認知が高い」のベンチマークを何処に置くかで意味合いが全く異なると思います。もし助成認知で7割程度を「認知が高い」と捉えると、ほとんどのブランドは全て認知が高いということになってしまいます。(とはいえ、どのブランドもマス市場で浸透して活動していることを考えれば、そうした認識も間違いではないと思います。)一方で、助成認知で9割以上であれば他のブランドを凌駕しているといえそうです。
自ブランドの助成認知スコアを評価する時に、BrandZデータベースの全カテゴリー平均やこうした類型別平均をベンチマークとして参照するといいと思います。但し、「助成」認知は調査の聞き方によってスコアの出方も異なってくるので注意が必要です。それに対し、「非助成」想起の場合は、助成なしに自発的に想起されたブランドがカウントされるので、聞き方によってスコアが異なることも少なくなり、直接比較がしやすくなります。
非助成想起を基に算出されたものが「想起性」
MDSで用いている「想起性」指標は非助成想起で挙げられたブランドの、上位のもの(トップオブマインド)だけをカウントすることで算出しています。例えば、非助成想起で7つのブランド名が正しく挙げられたとした場合、最初に挙げられたブランドと7番目の最後に挙げられたブランドでは、同じ「非助成」であっても想起や認知の質が異なるという考え方に基づいています。このように、カテゴリーや国や年度に関わらず、できるだけ指標の「標準化」を行うことで、自カテゴリー以外のクロスカテゴリーでの(ノームとの)比較が可能になるわけです。
スターブランドであっても意義性に「勢いが足りない」ことがある
アイコンブランドもスターブランドも差別性も意義性も高いパワーポジション(右上象限)のブランドです。ブランドの認知の大きさから当然期待される差別性や意義性の高さ(期待値)とブランドの実測値を比較することで、そのブランドの「勢い」を推定することが出来ます。差別性の標準化指数が平均未満と低くても、期待値より高く評価される「勢い」があれば、差別性は将来強化・成長される可能性が高いと考えることが出来ます。認知をブランドの「体の大きさ」のように考えてこれをオリンピック競技に例えてみると、体重が大きい選手の方が競技上は有利に決まっていますが、公平に体重別に見なければ「選手の真の実力」は判らない、と同じ考え方です。
アイコン・スターブランドの差別性・意義性の標準指数と認知の大きさからの期待値とのギャップの関係を見たのが下のグラフです。MDSマップ右上のパワーポジションにいる両ブランド類型ですから、横軸の指数は当然高くなります。それに対し、縦軸の「勢い」=期待値とのギャップがどうなっているかを見ると、シンボルもスターも左グラフの差別性の場合は指数の高さだけでなく勢いもある(期待値よりもプラスのギャップが大きい)、優良な状態にあることがわかります。

それに対して意義性は、スターブランドの場合は指数が高いのですが勢いで見ると「ほぼ期待通り」に留まってしまっています。「期待通り」なのでスコアが悪いわけではないのですが、目指すべきシンボルブランドは「期待値を超えている」ことを考えると改善の余地がありそうです。
ここで用いているのはブランド類型の平均値なので、実際にはスターブランドの一部には意義性の勢いが弱いブランドがある、ということを意味します。下記グラフで国内データベースの実際の分布の仕方を確認してみましょう。

スターブランドには意義性の指数が高くても、意義性に期待されるほどの勢いがないブランドがかなりの数存在し、その中には意義性の指数も平均を下回っているものも多いことがわかります。こうした傾向を示すブランドがあれば、MDSマップの右上(パワーポジション)にあるブランドであっても意義性の強化・改善を考えたほうがいいということになります。
マインドシェア(意義のある差別性)が高ければ、流通店頭先でも優位となる
「基礎篇」でブランドのフィジカルアベイラビリティについて説明を行いました。マインドシェアは顧客の心の中(メンタル)の問題であるのに対し、フィジカルアベイラビリティは店頭や流通・販売システムなど顧客を取り囲む市場環境の問題です。つまり両者は概念上では独立した定義を持ちますが、「基礎篇」やその他の記事で見てきたように、両者には密接な関係があり、マインドシェアが高いブランドはフィジカルアベイラビリティでも優位となることが多くなります。
MDSではフィジカルアベイラビリティの力を、自ブランドのマインドシェアが購買に転換するフィジカル上での防御力と、マインドシェアが競合にあるにもかかわらず自ブランドの購買につなげるフィジカル上での攻撃力の両面でみます。
下図でわかるように、シンボル/スターといった類型のパワーポジション(右上象限)ブランドの場合、フィジカル上でも非常に強い力を持っていることがわかります。縦軸のマインドシェアの購買転換率が8割を超えるようなフィジカルの力を持つと、競合のマインドシェアから購買を奪いやすくなります。

また、右上象限(パワーポジション)の入り口にいて意義性の強化が課題である「気になる」ブランドは、フィジカルの面では平均的であり、課題である意義性の強化には店頭などのフィジカル面の強化も役に立ちそうです。先ほど見た意義性の「勢い」に課題のあったスターブランドの場合も、まずはフィジカル面のチェックから始めるといいと思います。購買のしやすさに影響するフィジカルアベイラビリティが相対的に弱ければ、意義性または意義性の勢いも弱くなってしまうからです。
執筆: 合同会社カンター・ジャパン ブランドコンサルタント 堀義弘
本記事はシリーズ構成の続編です。 これまでをまだご覧になっていない方は、背景や用語をスムーズに理解するため、ぜひはじめからお読みください。
マーケターのためのブランド戦略 連載講座
ブランドのポートフォリオは何をゴールにして、どのように管理すればいいのか?
<目次>
【基礎篇】ポートフォリオの共通基盤となるMDS指標
ポートフォリオの共通基盤となるMDS指標①
ポートフォリオの共通基盤となるMDS指標②
【戦略篇】MDS指標を用いたブランドポートフォリオの戦略の考え方
[その1]MDS指標でみたブランドの現状
(1−1)マップ上のポジショニングから考える
(1−2)グラフの波形から考える
(1−3)ブランドの期待値から「勢い」を読む
[その2]MDS指標を用いたブランド強化の考え方
(2−1)意義性・差別性の「勢い」を含めて理解する
(2−2)ブランドライフサイクルでの「文脈」を理解する
[その3]MDS指標を用いたブランドポートフォリオ戦略
(3−0)ブランドのライフサイクルに即した10の戦略
(3−1)市場優位性を持つブランドに適した戦略