Special conversation

Vol.01

Japanese / English

今や海外売り上げ約8割に
最高益更新続くアシックスの
グローバルブランド戦略に迫る

人気・流行の浮沈が激しいスポーツブランド。2020年度に営業赤字に陥ったアシックスは、トップアスリートとの連携強化による製品開発のほか、カテゴリーごとの戦略やチャネル改革などが奏効し、急回復を遂げている。世界の有力企業向けにブランド戦略やマーケティング領域を中心としたソリューションを提供するカンター・ジャパン 佐々木 亨氏が、アシックスの戦略に迫った。(文中敬称略)
[ファシリテーター] 日経BP Insight メディアディレクター 小平和良

領域ごとに進化とブランド体験拡大

佐々木 当社は英国の大手広告代理店WPPグループの一員で、世界主要企業のブランド価値を定量化した「BrandZ(ブランジー)」という指標を算出し、20年前から毎年ランキングを発表しています。2025年のアパレル部門では、アシックスが8位にランクインしました。経営面でも2020年度の営業赤字から、2024年度には営業利益1000億円超と、短期間で業績を急回復させています。改革が成功している要因はどこにあるのでしょうか。

富永 アシックスは昨年、創業75周年を迎えました。長い歴史の中で業績を伸ばしてきましたが、2015年ごろからの競争激化とデジタル対応の遅れ、「良いものを作れば売れるだろう」という過信から成長が鈍化しました。そこで2018年以降、現・代表取締役会長CEOの廣田(康人氏)のリーダーシップで、大きく3つの変革に着手しました。

佐々木 具体的に教えてください。

富永 1つ目は、従来の機能別の組織から、ランニングシューズ、テニスなどの競技用シューズ、アパレル・エクィップメント、スポーツスタイル、オニツカタイガーと、5つのカテゴリーの組織へ再編し、各カテゴリーが製販一体となりグローバル戦略を立て、本社主導でチャネル改革やマーケティングに着手しました。

 2つ目は、トップアスリートとの連携強化です。代表的な例が、創業者・鬼塚喜八郎の「まず頂上を攻めよ」という言葉から名付けた「C-PROJECT(Chojoの“C”)」です。世界で活躍するランナーたちとともに、彼らの走法に合わせて最適設計を追求しました。その結果、生まれたのがトップアスリート向けのランニングシューズ「METASPEED(メタスピード)」です。現在、世界約100人の選手と契約しています。

 3つ目が、ライフスタイル領域の本格化です。スポーツスタイルは、新しいデザイナーとのコラボや販売パートナーとの連携強化により新規顧客開拓を進め、当社のスポーツテクノロジーをライフスタイルへ提案するカテゴリーとして育てています。

佐々木 ライフスタイル部門もすごく伸びていますね。

富永 はい。従来は「ランニングシューズのテクノロジーを普段履きに」という訴求でしたが、様々なデザイナーと組んだり、パリファッションウィークに合わせてイベントを開催したりと、様々な施策を実施しました。このように各カテゴリーを着実に進化させ、ブランド体験を広げました。

佐々木 マーケティングの観点から見ても、アシックスは顧客エンゲージメントが卓越しています。世界メンタルヘルスデーでのメッセージ発信、オリンピックやマラソン大会での選手とファンの交流、ロイヤルティーメンバーシッププログラム「OneASICS」やアプリ連動イベントなど、製品だけでなく“体験”を設計しています。
 さらに、デジタル&ソーシャルでの一貫したストーリーテリングが強い。2022年の「負けっぱなしで終われるか。」に始まり、「こんなもんじゃない。」「脚をとめるな。」「駆け抜けろ、可能性。」という反転攻勢のメッセージは、社員にも消費者にも届く“物語”になっています。

プロダクトと体験の両輪で新価値創造

佐々木 海外はどこが伸びていますか。

富永 インドネシアやマレーシアなどの東南アジア、インドですね。現地のマラソンやテニス、朝活といったスポーツ文化の成熟とSNS発信が噛(か)み合い、「健康的で格好いいライフスタイル」の象徴として受け入れられています。
 オーストラリアではフットドクターによる推奨が浸透し、「足に良いブランド」という評価が定着しています。現在、海外売上比率は約8割に上ります。

佐々木 製品カテゴリーごと、国や地域ごとの単独の戦略に見えて、実は全体最適になっていると感じます。その証拠に、収益面でも著しく改善しています。

富永 不採算領域の整理とハイエンドへのシフト、直販・自社EC強化を同時に進めました。EC比率は約20%まで上がり、特にオニツカタイガーの直販比率は85%です。値引き前提から脱し、ブランド価値で選ばれる構造に転換できたことで、営業利益率は約15%を確保できています。

佐々木 ブランドは「意味のある差別化」が重要です。アシックスは走法への着目など、研究の独自性を製品に落とし込み、機能の物語化に成功しました。
 AI時代は“検索”より“要約・推奨”に寄るので、信頼できるブランドがより強くなります。そうなると、値引きしなくても売れるという好循環になります。アシックスはその要件を満たしていると思います。

富永 ありがとうございます。パフォーマンス領域は大きくブレないと思いますが、ライフスタイル領域は流行の移ろいが速いので慢心せず、常に新鮮さを保つことが重要だと考えています。

佐々木 成功に重要なのはイノベーションの継続だと思います。プロダクトと体験の両輪で新しい価値を出し続けることが求められます。日本企業の多くは「良いものを作れば売れる」というバブル期までの成功体験に縛られ、海外市場に出てブランド価値を高めるという発想がありませんでした。
 今は日本再評価の追い風があります。ただ、日本のソフトパワーをいかにブランド価値に翻訳できるかが重要です。アシックスのようにグローバルで評価を得るには、各国の市場に合わせたチューニングが不可欠です。当社は消費者の膨大なデータセットを保有しており、世界市場を目指す企業をサポートします。

富永 当社グループも富士山マラソンをサポートするなど、体験価値を磨いています。「日本でしかできない体験×アシックスの機能価値」の掛け算は、世界のファンに響くと感じています。世界のトップと真正面から競い、パフォーマンスで選ばれ、日常でも愛されるブランドであり続けたい。数字だけでなく「健全な身体に健全な精神があれかし」という創業哲学を礎とするブランドを磨き続けます。

佐々木 今後も世界で選ばれ続けるよう、さらなる進化に期待しています。

本記事は、日経BP の許可により日経ビジネス電子版2025年6月20日-7月19日に掲載した広告を転載したものです。
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